
現代の日本社会では、遺品整理という言葉を耳にする機会が急速に増えています。その背景には、少子高齢化や核家族化の進展があります。かつては大家族や地域社会の中で、亡くなった人の遺品を親族や近隣が協力して整理することが一般的でした。しかし、近年では一人暮らしの高齢者が増え、いわゆる「孤立死」が社会問題となる中で、膨大な遺品を遺された家族だけで整理することが難しくなっています。精神的な負担に加え、実際の作業も時間や体力を要するため、専門業者に依頼するケースが急増しているのです。
こうした需要の高まりに伴い「遺品整理業者」を名乗る事業者も全国的に増加していますが、その一方で業界の法制度やルール整備はまだ十分に追いついていません。例えば、廃棄物処理や貴重品の取り扱いには法律が関わるものの、遺品整理そのものを直接規制する法律や国家資格は存在しません。そのため一部には、過剰な料金請求や不適切な処分、個人情報や貴重品の流出といったトラブルを引き起こす悪質な業者も報告されています。
このような状況を受けて誕生したのが「遺品整理士」という資格です。これは業界の健全化やサービスの質を高めることを目的とした民間資格であり、遺品整理に携わる人の知識や倫理観を一定水準に保つための仕組みとして注目されています。社会のニーズが高まる一方でルールが未整備な業界において、この「遺品整理士」が果たす役割に期待が集まっているのです。
「遺品整理士」とは?何の資格?
「遺品整理士」という資格は、しばしば国家資格のように誤解されがちですが、実際には国家資格ではなく、一般社団法人遺品整理士認定協会が認定する民間資格です(ミライルまごころサービスメディア、c21sevenhouse.com)。資格制度が誕生したのは2010年で、これは日本で初めて体系的に遺品整理を専門とする資格とされており、業界内外から注目を集めてきました。
この資格が設立された背景には、急速に拡大する遺品整理業界の課題がありました。少子高齢化や核家族化によって遺品整理の需要は年々増加していますが、その一方で、業界には明確な国家資格や法律上の規定がなく、悪質な業者によるトラブルが相次いでいました。高額請求、不法投棄、貴重品や個人情報の不適切な取り扱いなどが問題視され、消費者の不安を高めていたのです。
そこで「遺品整理士」資格は、業界の健全化を図ることを目的に創設されました。資格取得者は、遺品整理に関わる基礎知識だけでなく、廃棄物処理法や古物営業法といった関連法規、依頼者に寄り添う心構えなどを学びます。単なる作業者ではなく、法律と倫理を理解した「専門家」として業務にあたることが求められるのです。さらに、資格取得を通じて業者の質を底上げし、消費者が安心して依頼できる環境を整える狙いもあります。
つまり「遺品整理士」は、国家資格のように法的拘束力を持つものではないものの、業界全体の信頼性向上と人材育成を担う役割を持つ重要な民間資格なのです。
- 「遺品整理士」は国家資格ではなく民間資格で、一般社団法人遺品整理士認定協会が認定する。
- 2010年に日本初の遺品整理資格として設立され、業界の健全化を目的としている。
- 法律知識や倫理観を持つ人材育成を通じて、消費者が安心して依頼できる環境づくりに貢献している。
国家資格との違い

国家資格とは、法律に基づいて国が認定する資格を指します。医師や弁護士、建築士や看護師などが代表的で、取得には国家試験の合格や実務経験が必要であり、資格を持たなければ業務自体ができない「業務独占」の仕組みがあります。このため、国家資格には明確な法的根拠があり、社会的な信頼性と拘束力を備えています。
一方で「遺品整理士」は、そうした国家資格とは異なり、法的に定められた資格制度ではありません。現状、遺品整理そのものを直接規制する法律や国家資格は存在せず、資格がなくても業として遺品整理を行うことは可能です。そのため、遺品整理士は国家試験によるものではなく、業界団体が認定する民間資格にとどまっています。
ただし、遺品整理を業務として請け負う際には、別の観点から行政の許可証が必要になるケースがあります。たとえば遺品の処分を伴う場合には「一般廃棄物収集運搬業の許可証」が必要となり、遺品の中に価値ある品を買取・再販する場合には「古物商許可証」が必要です。これらの許可は法律に基づいたものであり、取得しなければ業務を行うことはできませんが、いずれも国家資格ではなく行政から与えられる「営業許可」に分類されます。
つまり、国家資格は法律に裏打ちされた専門職の証であるのに対し、遺品整理において求められるのは主に行政の営業許可や民間資格であり、制度上の位置づけが大きく異なっているのです。
- 国家資格は法律に基づき国家試験で取得するもので、医師や弁護士のように法的拘束力がある。
- 遺品整理には現状、国家資格も法的な資格制度も存在しない。
- 業務には「一般廃棄物収集運搬許可証」や「古物商許可証」が必要だが、これらは国家資格ではなく行政の営業許可に当たる。
遺品整理士を取得する意義とメリット
「遺品整理士」は国家資格ではなく民間資格ですが、業界や依頼者にとって大きな意味を持つ資格とされています。まず大きなメリットは、資格を取得することで正式に「遺品整理士」を名乗れる点です。資格を持たない業者との差別化ができ、遺族からの信頼を得やすくなります。特に遺品整理は家族の大切な思い出や個人情報を扱うため、依頼する側は安心して任せられる相手かどうかを重視します。資格を持つことは、信頼性のアピールになり、結果的に依頼件数の増加にもつながるといわれています。
次に、資格取得を通じて遺品整理に必要な専門知識や心構えを学べる点が挙げられます。遺品整理の現場では、単に物を処分するだけでなく、法的な知識(廃棄物処理法・古物営業法など)や遺族への配慮、供養の意識が求められます。資格取得のカリキュラムにはこれらが含まれており、業者にとってはスキルアップや意識改革の機会となります。
さらに、この資格の存在そのものが業界全体の安心感につながっています。これまで「遺品整理業者」と名乗れば誰でも開業できる状態だったため、悪質業者による高額請求や不法投棄などが問題化してきました。そこで「遺品整理士」の資格を持つ業者が増えることで、利用者に「資格を持つ業者なら一定の基準を満たしている」という安心感を提供でき、業界の健全化にもつながるのです。
- 「遺品整理士」を名乗れることで依頼者の信頼性が高まり、仕事の受注増につながる。
- 資格取得を通じて法律知識や遺族対応など、専門的スキルや心構えを学べる。
- 業界全体に安心感を与え、悪質業者排除や健全化に貢献する資格である。
資格取得の実際:費用・方法・更新等

「遺品整理士」資格は、国家資格のような難関試験を突破するものではなく、比較的取り組みやすい制度設計になっています。取得方法は、一般社団法人遺品整理士認定協会が定めたカリキュラムに沿って学習し、課題レポートの提出と認定試験を受けるという流れです。試験は専門的な法律や実務知識、遺族対応の心構えなどを問う内容で、合格率はおよそ65%とされており、他の国家資格に比べればハードルは高くありません。そのため、未経験者でも真剣に取り組めば取得を目指しやすい資格といえるでしょう。
また、資格を一度取れば永久に有効というわけではなく、2年ごとに更新が必要です。更新時には追加の講習や資料提出などが求められる場合もあり、業界の最新動向や法制度に関する知識をアップデートする機会となります。これにより、資格保有者が常に一定の水準を維持できる仕組みが整えられているのです。
さらに取得者数の推移を見ても、この資格の注目度がうかがえます。毎年およそ3000人以上が新たに取得しており、現在では認定者数が累計で2万人を超えています。需要拡大とともに有資格者も増加しており、今後も業界のスタンダードとして普及していくことが期待されています。
- 遺品整理士はレポート提出と認定試験で取得でき、合格率は約65%と比較的高い。
- 資格は2年ごとの更新制で、最新知識や法規を学び直す仕組みがある。
- 毎年3000人以上が取得し、累計認定者数は2万人を超えている。
注意点:資格だけでは不十分な場合も
「遺品整理士」は業界の健全化を目的とした有意義な資格ですが、この資格を持っているからといって、必ずしも安心して依頼できる業者であるとは限りません。なぜなら、あくまで民間資格であり、法的拘束力を持つものではないからです。実際に遺品整理を業務として行うには、別途行政からの許可証が必要となるケースがあります。
例えば、遺品の中から出る大量のゴミを処分する場合には、自治体から交付される「一般廃棄物収集運搬業の許可」が不可欠です。これがなければ正規のルートで廃棄物を処理することができず、不法投棄などのトラブルにつながる危険性があります。また、遺品の中に価値のある品物が含まれており、それを買い取ったりリサイクル販売したりする場合には、「古物商許可」が必要です。これも警察の許可に基づくもので、個人情報や貴重品の扱いに直結する重要な許認可です。
つまり、遺品整理士という資格を持っていても、必要な許可証を持っていない業者は、法的に不適切なサービスを提供している可能性があります。資格はあくまで信頼性を高める一つの目安であり、本当に安心して任せられる業者かどうかを判断するには、資格と許認可の両方が揃っているかを確認することが大切です。消費者にとっては、「遺品整理士だから安心」と短絡的に考えるのではなく、業者選びの際に複数の観点から確認する姿勢が求められます。
- 遺品整理には「一般廃棄物収集運搬許可」「古物商許可」など行政の許可証が不可欠。
- 遺品整理士は民間資格であり、資格だけでは法的裏付けや十分な安心感にはならない。
- 信頼できる業者かを見極めるには、資格と許可証の両方を確認することが重要。
まとめ:結論と今後の展望
「遺品整理士」は国家資格ではなく、一般社団法人が認定する民間資格です。しかし、その価値は決して小さくありません。遺族からの信頼を得やすくなること、業界全体の健全化に貢献すること、そして業者自身が必要な法律知識や心構えを学べることは、この資格ならではの強みといえます。現状では資格がなくても業務を行うことは可能ですが、資格を持つことで「安心して任せられる業者」であることを示す大きな目印になります。
一方で、民間資格であるがゆえに限界もあります。遺品整理業を法的に行うには、廃棄物処理や古物商などの許可証が不可欠であり、資格だけで万全ではありません。依頼者が安心できる体制をつくるには、資格と許可証の両立が求められます。
今後、需要の拡大とともに法制度が整備され、将来的に国家資格化や新たな制度が検討される可能性もあるでしょう。その意味でも「遺品整理士」は、業界で活動する上での第一歩として取得をおすすめできる資格です。専門家として信頼を得たい人には、今後ますます重要な存在になると考えられます。